【pillings 2025年秋冬コレクション】“毛玉”が主役!? 未完成の美が再定義するラグジュアリーの価値

FASHION

“未完成の美”を提案するデザイナー・村上亮太のブランド「pillings(ピリングス)」が、最新の2025年秋冬コレクションが2025年3月17日(月)、東京都港区にある、品川インターホールシティにて発表された。

💎文:洪 玉英     💎カメラ:安座間 優

今回のテーマは、「pillings流の普遍性」。
形が整いすぎた今の時代だからこそ、くしゃくしゃで不完全なものの中にある優しさが、服を通して語られていた。

会場は、時の止まった校舎のようだった。
木の床が静かにきしみ、無機質な壁が記憶の奥にある風景を呼び覚ます。

ランウェイには、61個の小さなランプが一列に並び、息をひそめるような光が、空間を淡く染めていた。

響いていたのは、グランドピアノの旋律。
言葉にならない想いをすくい取るように、抽象的な音が空間にゆっくりと降り積もり、はじまりの瞬間に、ぬくもりとほのかな郷愁を添えていった。

「着飾る」から「共に過ごす」へ──静かな反逆のグレージャケット

ランウェイに最初に登場したのは、毛玉のようなテクスチャーのグレージャケット。
ゆるやかな輪郭を描く服と、どこかためらいを残したモデルの足取り。
そこにあったのは「見せる」ための表現ではなく、「生きる」ことそのものだった。

音も演出も抑えられた舞台で、その静けさこそが“反抗”だった。
完璧を崩し、未完成を肯定する──それは、現代ファッションの常識に対するpillings流の挑戦だ。

「pillings」は、英語で毛玉を意味する“pilling”に複数形の“-s”をつけた造語。
毛玉は、人と服の関係性の中で自然に生まれる“痕跡”。
その毛玉を愛おしい記憶や関係性の象徴として肯定的に捉え、デザインの核に据えている。

特に印象的だったのが、不均等な縫い目や斜めに走るステッチがあしらわれた一着。
人の手の温もりを感じさせるそれらのディテールは、無機質な“均一さ”に対する疑問符でもある。

「なめらかで整った服=上質」という既成概念を問い直す、ピリングスならではの視点が光った。


今季のハイライトの一つが、シワ加工のサテンとバルーンシルエットを重ねた二重スカート
ねじれた縫製やラフな仕上げが、偶然ではなく「狙った未完成」を印象づける。

また、くたびれたレースカーテンのような軽やかなドレスも登場。
どこか疲れた質感をまといつつも、誰もが気負いなく着られる“普遍的な美”を感じさせた。


ニットのセットアップからは、小さな白い布の花々がところどころ顔を覗かせる。
咲くというより、「こぼれ落ちた」かのような、儚くもユーモラスなディテールは、服そのものに生命を宿しているようだった。

ノルディック柄がほどけて、服が語りだす──pillingsらしさあふれる一着

深い赤のノルディック柄ニットは、伝統的な温もりの中に、pillings特有の“ゆがみ”と“び”を潜ませている。


裏側から浮かび上がるようなモチーフや構造が、まるで記憶の断片のようににじみ出し、服そのものが語りかけてくるようだ。


ボリュームのある袖やねじれたディテールは、「整っていない」ことへの美意識を体現し、
足もとのしわ加工スカートとのレイヤードで、“未完成という完成形”を映し出していた。

蟻が歩くニット、乱れたレース──繊細さとざらつきの交差点

白いVネックニットに、目を凝らすと小さな“蟻”の刺繍が散りばめられている。

一見、愛らしくも見えるこのモチーフは、よく見るとやや不穏で、視線を惑わせる。

均整を欠いたレースのフリルや、ねじれたライン、重力に任せたようなドレープ──

それらすべてが、pillingsが掲げる「意図された未完成」そのものだ。

どこか“くたびれた”、けれど味わい深い空気を纏ったルックは、決して衝撃的ではない。

けれど、見る者の心にそっと爪痕を残す静かな違和感が、ここにはある。

ピリングスらしい遊び心も随所に光った。

これらの装飾は、服が“命を宿している”ような愛らしさと、ウィットに富んだデザインの妙を伝えている。


pillingsが描くラグジュアリーは、一瞬で消費される「高級さ」ではない。
時とともに寄り添い、毛玉さえも愛おしさへと変えていく服だ。

それは、着る人の人生と共に、静かに記憶を重ねていく存在。
整っていないからこそ、心に残る。

そんな“未完成の普遍性”こそが、pillingsなりのラグジュアリーのかたちなのだろう。

💎文:洪 玉英     💎カメラ:安座間 優

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