SEVESKIG 2025-26年秋冬|“TO BE TWISTED”:想定外のねじれが生む叛逆の美学

FASHION

2025年2月5日、建て替えのため閉場中の国立劇場(東京都千代田区)が、一夜限りのランウェイへと姿を変えた。舞台に登場したのは、デザイナーの長野剛識(ながの のりまさ)がプロデュースするメンズブランドブランドSEVESKIG(セヴシグ)による2025-26年秋冬コレクションが開催された。

ショーの口火を切ったのは、異彩を放つ2人のミュージシャン——RIZEのベーシスト・KenKenと、サンプラー奏者・KO-ney。重厚なベースと電子音に、横笛や太鼓が交錯する音世界が、観客を一気に“ねじれ”の物語へと引き込んでいった。

ショーの開幕を飾ったのは、ロックバンドRIZEのベーシストKenKenと、サンプラー奏者KO-neyによる即興セッションだった。
提灯が舞台に灯され、横笛と太鼓の音が静かに響き渡る中、ふたりは**“異形”**とも言うべき前衛的な装いで姿を現した。

KenKenは、黒地に白い骸骨模様を大胆に染め上げたシャツに、背面に「魔」の文字をあしらったワイドパンツ
KO-neyは、控えめな光沢を湛えた深Vネックのトップスに、手の込んだ刺繍装飾が施されたオリジナルシルエットで登場。

彼らが奏でる重厚なベースラインとエレクトロニックサウンドは、空間に漂う笛の余韻と交錯し、和と現代音楽がねじれ合う独特の音像を生み出していく。


やがて照明がゆっくりと明転し、歌舞伎舞台をそのまま活かしたランウェイに、**“日本美のねじれた変奏曲”**が広がっていった。

テーマは“TO BE TWISTED(ねじれること)”。伝統芸能の象徴とも言える舞台で、あえて「ねじれ=歪みや矛盾」に光を当てるという異端の演出は、歴史ある空間の印象すら覆すほど、挑発的かつ鮮烈だった。

本来なら三味線が鳴るはずの舞台に、エレキギターの甲高い音が炸裂し、空気を一変させた。

“ねじれ”を軸に、既成概念への抵抗と再解釈を織り込んだこのショーは、文化施設という常識的文脈を意図的に裏切りながら、SEVESKIGらしい反骨と美意識を示した。

ランウェイの口火を切ったのは、時空を超えて現れたかのようなサムライ風ルック。

深い赤のオーバージャケットに、重ねられたチェック柄の二重スカートが揺れ動くたび、どこか退廃的な空気が漂う。

モデルの歩みに重なるように、戦後の記憶や「失われた30年」の影がじわじわと滲み出してくるようだった。

今季コレクションは、優雅や品格といった従来の価値観を意図的に逸脱。壊れたもの、癒えぬ傷、そしてかさぶたのような“未完の美”を受け入れ、観る者の心を激しく揺さぶる。

これは「小さな危険を引き受けて、大きな危機を回避する」服の思想。まさに、現代社会に生きる我々の姿そのものを写し出していた。

注目アイテムは、伝統技法「焼箔(やきはく)」を現代的に再解釈したレザージャケット。硫黄で焼かれた銀箔は、時間の経過を思わせる揺らぎと光の変化を纏い、日本的な「無常観」を体現。
ただの装飾ではなく、素材そのものが語りかける服となっていた。

上記のルックも、日本伝統の加工技術「焼箔(やきはく)」を用いたレザージャケット。
硫黄で焼いた銀箔に骸骨のモチーフを描き出し、移ろいゆく光を纏うその姿は、まさに“無
常”を可視化する衣服。そこには、儚さを悲観せず、受け入れたうえで力強く生き抜こうと
する、日本人特有の美意識が滲んでいた。

異彩を放っていたのが、1991年公開のカルトSFアニメ『老人Z』との異色のコラボレーションだ。
本作は、超高齢化社会とテクノロジーの行き過ぎた融合を描いたブラックユーモアあふれる作品。今回のコレクションでは、主人公・三橋晴を描いた江口寿史による原画をベースに、ポップかつ風刺的なイラストがTシャツとして再構築された。

そのビジュアルは、ただのアニメモチーフにとどまらず、老いと未来個人とシステムといった現代的なテーマを鮮やかにモードの中に刻み込む。
ファッションを通して、SF的想像力と社会風刺を織り交ぜた視覚言語として機能するスタイルが、観る者の思考を刺激する印象的な試みとなっていた。

異彩を放っていたのが、1991年公開のSFアニメ『老人Z』とのコラボレーション。Tシャツに描かれたのは、超高齢化社会を舞台にした本作の主人公・三橋晴。イラストは、江口寿史による原画をベースにリミックスされている。


長野剛識はこのブラックユーモアと社会風刺に満ちた作品世界に共鳴し、服を通じて「老い」と「未来」が共存する視覚表現を提示した。混迷の時代にこそ、三橋晴のような“英雄”が必要なのかもしれない——そんな問いかけすら感じさせるスタイルだった。

SEVESKIG 2025-26年秋冬コレクションは、一見すると要素が散逸しているように映る。
しかしそのすべてが、「ねじれ」という視点で束ねられ、現代社会そのものを映し出す鏡
となっていた。
想定外のままに世界を着こなす。そこには、ファッションの可能性を問い直す力が確かに
宿っていた。

1960年代の日本の若者文化や伝統意匠「沙綾形」などを再構成したウールのツイード、マドラスチェック、アーガイル柄。さらには、ヴィンテージTシャツのパッチワークや、半纏を模した素材づかいなど、多彩なテキスタイルがコレクションに奥行きを与える。

KIDS LOVE GAITEやAVNIER、SUBUとのコラボも継続され、SEVESKIGらしい複層的な素材表現が展開された。

要素が多く雑多に見えて、実は「ねじれ」という一本の軸で結びつけられていた今回のコレクション。
SEVESKIGは、「想定外のままに世界を着こなす」というメッセージを通じて、ファッションが持つ本質的な可能性——時代や価値観への問いかけ——をあらためて提示した。

💎文:洪 玉英     💎カメラ:安座間 優

  

 

          

error: Content is protected !!
Copied title and URL