
京都劇場で17体の和の意匠を纏った洋装が生演奏と融合|Ziggy Stardustも蘇るKANSAI YAMAMOTOの圧巻ステージ
2025年6月14日、京都市下京区の京都劇場で開催された、『第31回 FASHION CANTATA from KYOTO』。今回のステージを飾ったのは、山本寛斎の精神を継承するブランド・KANSAI YAMAMOTOによる、壮麗かつ挑戦的なファッションパフォーマンスだった。
日本の伝統美と前衛的な洋装、そして音楽・身体表現が交錯し、ファッションを“生きた体験”へと昇華させる壮大なショーが繰り広げられた。
シシド・カフカが奏でる《熊手》——音と刺繍が交差する衣装芸術

オープニングを飾ったのは、ミュージシャンシシド・カフカのドラムパフォーマンス。
彼女が着用していたのは、KANSAI YAMAMOTOのアーカイブ作品《熊手》。酉の市の縁起物をモチーフにしたこのドレスは、群馬・桐生の伝統技法「横振り刺繍」をベースに、スパンコールやラインストーンが贅沢に施された一着。
舞台照明を受けてキラキラと変化する刺繍の表情と、力強いビートが共鳴し合い、「衣装そのものが音を放っている」かのような一体感が生まれた。ファッションと音楽の境界線を越えた瞬間である。
鯉が登る——SOIL&“PIMP”SESSIONSが体現する飛躍のエネルギー

次に登場したのは、ジャズバンドSOIL&“PIMP”SESSIONS(ソイル・アンド・ピンプ・セッションズバンド)。バンドの“社長”が纏ったロングコートには、原皮に手彩色で描かれた鯉と滝の意匠が躍る。これは、中国の故事「登龍門」に着想を得たもので、逆境を乗り越えて飛躍する力を象徴するデザインだ。
トランペットを吹き鳴らしながら舞台に立つその姿は、不屈の精神を纏ったリーダー像そのもの。音と衣装が共鳴しながら、ひとつの生命体のようにステージを動かしていく。
旅する衣装——寛斎が見たアジアと日本の伝統
ピアノの丈青、ドラムの小名阪が着用したブルゾンには、KANSAI YAMAMOTOがかつて旅したチベット、ブータン、インドの文化的エッセンスが織り込まれている。繊細な横振り刺繍が、地域の記憶を洋装という形で現代に蘇らせる。
また、ベースの秋田ゴールドマンとサックスの栗原が纏った衣装には、江戸時代から東北地方で受け継がれてきた古布や布団地がテキスタイルとして再構成されていた。寛斎の「再生」の哲学——**“古きものに新たな命を”**という思想が、現代ファッションとして強く息づいていた。
姫路の革とチェコの輝き——クラフトマンシップの頂点
トランペット奏者タフゾンビの衣装もまた圧巻だった。1000年以上の歴史を持つ姫路の革の伝統技術と、チェコ・プレシオサ社製のボヘミアクリスタル刺繍が融合したジャケット。ヨーロッパの宮殿装飾にも使われる高い屈折率と精密カットのクリスタルが、舞台のライトに反射して虹色の輝きを放つ。
西洋と東洋、素材と装飾、伝統と未来が一着の衣装の中で交差し、観客の視線はその煌めきに引き寄せられたままだった。
Ziggy Stardust、今ふたたび——アオイヤマダが継ぐ魂のステージ

ショー後半に登場したのは、ダンサーアオイヤマダ。彼女が着ていたのは、**デヴィッド・ボウイが1973年のUSツアーでZiggy Stardustとして纏ったKANSAI YAMAMOTOの代表作《TOKYO POP》**である。
だが、これは過去の再現ではない。アオイヤマダの身体表現と音、舞台演出が組み合わさった瞬間、Ziggyの魂が2025年に舞い降りたようだった。
「変化せよ」というメッセージは、観客の心に静かに、しかし確かに響き渡った。

壊してこそ、伝統は美しく蘇る——KANSAI YAMAMOTOの問い
KANSAI YAMAMOTOのファッションは、決して“和装の再構築”ではない。洋装の形式の中に、日本の伝統、異文化の旅、革新的な素材、そして個性の爆発を融合させた革新のかたちだ。

ファッション×音楽×身体の総合芸術=ライブアートとして、寛斎が生涯追い続けた、“境界を越える”美のレボリューションでもある。

山本寛斎の問いは、いまなお世界に挑戦を投げかけている。
——その答えは、観客一人ひとりの中に宿っている。

💎取材・文:洪 玉英 💎カメラ:安藤 洋晴